report e.asano
図1.理想的な加速をした時の速度とエンジン回転数の関係
最大変速比は可変プーリーの内径とクラッチ側のプーリーの外径の比で決まり
(ミッション車のローギアに相当)
最小変速比は可変プーリーの外径とクラッチ側のプーリーの内径の比で決まる
(ミッション車のハイギアに相当)
ことは一般的に知られている。
プーリーによる変速はグラフの平行部分でこの時のエンジン回転数は一定となる。
なぜ変速時にエンジン回転数一定とした方が良いか?
それは
「単純に長い時間最高出力を発生していた方が変速効率が良い」からである。
※詳細はたいせーさんのHPにあります。こちらを参照方
ライブDio-ZX(A-AF35)の走行性能曲線図を次に示す。
車両総重量:130kg
転がり抵抗計数:0.014
空気抵抗計数:0.0036
全面東映面積:0.57m2
図2.ライブDio-ZX(A-AF35)の走行性能曲線図
少々見にくいが横軸に速度、縦軸に駆動力・走行抵抗(左側)、エンジン回転数(右側)を取っている。
グラフの青線が速度とエンジン回転数の関係を表している。
図1の赤線に相当するものである。
7000rpm-28km/hまで一気に加速し、7000rpmで53km/hまで変速し、
そこから後は速度とエンジン回転数は比例して上昇する。
変速域をなぜ再高出力の6500rpmとせずに7000rpmとしているのかは不明である。
ではWRの重量を変更することによってなにが変わるのか?
それは変速域の回転数を変えることである。
(下図参照)
Vマチックの変速はエンジンの最大出力となる回転数で行うことが最も効率良く行われる。
そのため最大出力となる回転数をさぐっているのだ。
(セッティングの際はロス等もあるので最大出力よりやや高めの回転数にセットする)
図3.WRによるセッティングとは
では、実際の走行において変速はどうなっているのか?
VTECさんとじゅんぺーさんの協力を得てノーマルのZXで 平地をフルアクセルで0発進し
データをサンプリングしてもらったものである。
(追補)
なお測定値についてはスピードメーターで目標速度に達した瞬間の
エンジン回転数をデジタルタコメーターで読み取った物である。
走行性能曲線図に重ねると次の図のようになった。
図4.走行データと走行性能曲線図
●が排ガス規制前の'97ZX(VTECさん)
●が排ガス規制後の'00ZX(じゅんぺーさん)
を表している。
まずこの図から言えることは、
1)理想値と実際の走行には10〜37km/hにかけて開きがある
2)排ガス規制前後では加速性能が若干異なる
考察
1)について;
下図の青いエリアが理論値と実際の走行の差にあたる。
理想値に近付けば加速性能は更に向上する。
(追補)
「加速中における」デジタルタコメーターの表示精度(反応精度)と
スピードメーターの表示精度について考慮に入れていなかったので
参考程度に見て欲しい。
デジタルタコメーターとスピードメータの表示タイムラグについても検討中。
デジタルタコメーターの表示時間が0.5secであるから加速中の回転数は
少なくとも±200rpmの誤差があると考えられる。
WRを軽くするのは変速域の回転数を上下させるだけでなく実際には
加速性能をあげるためにこの青いエリアを矢印の方向に引き上げていると考えられる。
その場合、変速域が高くなるために中速以降は理想値から外れてしまう。
WRを軽くした場合の変化については調査が終わり次第報告する。
図5.理論値と実走行の差
2)について;
ライダーの体重、マシンコンディション等が完全に同じでないので参考程度として欲しいが、
「排ガス規制後のZXは出力を7.2→6.3PSに落としているが駆動系を見直し出足をよくしている」
ということがデータ的に現われているのではないだろうか?
両者の差を緑のエリアで下図に示した。
しかし、近年のスクーターの変速機能はウェイトローラーの遠心力vsコンプレッション
スプリングの力のバランスだけではない。
トルクカムというセカンダリスライディングシーブに傾斜のついた溝を刻むことで、
走行負荷に対応した変速比を選択でき、ベルト駆動のVマチック方式にキックダウン機能とを
持たせるいう進化をもたらした。
これにより、速度とエンジン回転数の特性は変速域において、右上がりから水平に近付き、
スクーターの加速性能も一気に向上した。
登り勾配にさしかかったり、アクセルを開けたままブレーキを使うことなどによって負荷が掛ると
後ろのクラッチ側のプーリーとベルトがスリップすることによってクラッチ側のプーリーの幅が変わり
変速比が大きくなりキックダウンを起こすことができるのである。
トルクカムがどのようにして作動するかの詳細は
TacmixさんのFK-9の「なぜ変速するの?」をご覧下さい。
http://www.tackmix.com/fk9/
ホンダ、ヤマハは'84年以降からこのシステムを採用しておりハイパワーモデルでは必ず装備している。
#ホンダは2代目タクトよりトルクセンサーという名で採用した
ここで断っておくが、
「トルクカムさえ入れておけば必ず加速が万能になるというわけではない」
ということを覚えておいて欲しい。
変速範囲内においてエンジンに余裕駆動力が十分にある状態にあることが必要条件である。
この話をすると長くなるので別のコーナーで記述することにする。
|
|
|
|
・シャフトと平行 |
|
初期のシステム。
滑りによるシフトダウンは起きないため再加速性悪い。 純粋にウェイトローラーとコンプレッションスプリングの 強さがバランスするだけ。 トルクカムとは言えない。 |
|
・シャフトに対して
「へ」の字 |
|
への字になっているのは、途中で変速タイミングを
変えているため。 0発進付近では負荷の条件が様々なので、 対応をしやすくするために溝を緩やかにして、 ある程度の変速後はアクセルレスポンスによって マイルドな走行感を持たせるために急な角度 (シャフトと平行ぎみ)にしている 。 |
|
・シャフトに対して
斜め |
|
|
溝の傾斜が緩やかになればなるほど、
負荷によるシフトダウンが起きやすい。 溝が寝る(シャフトに対して垂直方向側)
|
例)スズキちょいのり、ホンダZOOKなど
速度域によるガイドピンの溝の位置は下図のようになる。
クラッチ側(左図の上側)が低速域、
プーリー側(左図の下側)が高速域となる。
負荷が掛ったらなぜトルクカムが動くのかはたいせーさんのHPやtacmixさんのHPを参照してください。
ホンダのへの字トルクカムが理想的な変速を行う場合、
各速度域でのトルクカムの動き(位置)に着目した変速中のクラッチ側プーリーの動きは下図のようになり
トルクカムの動きとエンジン回転数と速度の関係は4つの領域に分けて考えられる。
表。各速度域におけるトルクカムの動き
これだけでは良く判らないのでトルクカムの溝の位置と速度とエンジン回転数の関係を
対比させた物が下図である。
クラッチインしてから変速が始るまでの領域I。
ここではWRの遠心力よりも走行抵抗(+クラッチコンプレッション)が
大きいためトルクカム機構が最大に働く。
クラッチインしてから速度の上昇はエンジン回転数に比例する。出足に相当する。
速度が上がってくるにつれて走行負荷は下がりはじめる。
変速初期は走行負荷がまだ大きいため変速比の大きい領域IIに位置する。
速度的には低速〜中速にかけてでエンジン回転数は一定である。
さらに走行負荷が減ってくると領域IIIに入る。
速度的には中速域以降で、WRの遠心力とセンタークラッチスプリングとの力の釣り合いが
大きく支配していると考えられる。走行負荷は無くなるわけでは無い。
ここでの変速はWRの遠心力、つまりエンジン回転数に比例する。
|
27V−17670-00 |
|
|
|
|
採用車種 | 初期型JOG | '86JOG(5.3ps) | '89JOG(6.8ps)
'88BW's Z? |
'91JOG-Z(7ps)
グランドアクシス '00JOG |
'95JOG-ZR
JOGsport90 アクシス90 |
ント |
低速、中速、高速で3つの溝を持つ。中低速の折れは小さい。高速でかなり立っているので変速終了時にWRの遠心力に | 低速側の溝が比較的
寝ており、折れは少ない。中速から立つような格好。立っている部分と寝ている部分の比率はほぼ等しい。この時代の物は少ない馬力を如何に生かすかを重視されているという。 |
高速側の溝が比較的寝ており、折れも少い。30km/hからの加速を
重視した物とされている。ZR('95ー97)等に採用されている3WGタイプはこの同等品。 |
中高速側の溝が比較的立っており、折れが大きく低速側が寝るよう
な格好。24Gと3AAの中間的な形状。0-30km/hまでの加速を重視した物とされている。最近の触媒取付車種などにも採用が見られる。 |
3AA同等品。
元々は90シリーズ用 だったと思われる。 何故ZRに採用された かは不明。 |
クラッチ側 ↑ 形 状
↓
|
|
|
|
|
|
|
'94〜'96ライブDioZX | '97〜 ライブDioZX | ジョルノクレア | G’ |
|
低〜中速側の溝はほぼ45度。中低速域での負荷によるシフトダウンはおきやすい。
しかし高速側の溝が ほとんど立っており、 折れが大きいため 高速側からの再加速は シフトダウンが起きにくく やや苦手でアクセルレスポンスに対してマイルドな走行感 |
溝の形状は'94〜'96ZXと
ほぼ一緒であるが、 折れの処理が緩やかに なっている(丸印)。 中高速域のつながり 向上を狙ったと考えられる。 |
スクーターレースで
密かに使用されている。 中高速域側の溝が寝て おり折れが緩やかになっている。 アクセルレスポンスをよりシビアな味付けにしていると考えられる。 |
低中速の溝の角度は変わらないが
ライブDioに比べて中速域から溝が立っている。 そのため、高速からのキックダウンはしにくい半面、ギクシャク感は薄い。 ビートもこのタイプであるが溝の穴が大きい。 |
クラッチ側 ↑ 形 状
↓
|
|
ホンダのトルクカムの形状の特徴は、基本的には「ヘ」の字を採用しており
ヤマハのように溝の傾きにバリエーションがあまり無く、溝の長さで組み合わせているようである。
しかし、近年のパワーのない4stスクーターからはGEEのような形状が採用される傾向にある。
負荷のかかる中低速は低めのギアを設定し、負荷のかからなくなった中高速は高めのギアにしてトップへつなぐ。
45度くらいの傾斜を持たせるとピークパワーでうまく変速できるが常にピークパワーを使うので燃費が少々悪かったり、
再加速の際にアクセルに対して敏感にギクシャクした感じで反応してしまい乗り心地が悪く感じてしまう。
ホンダのスクーターの乗り味がマイルドな感じはこういったところも大きく関係していると思う。
何故こんなことが起こるかというと、ハイスピードプーリーやWRの重量を交換することで
変速のバランスが崩れるためである。
WRによる遠心力が強く領域IIから領域IIIへ変わった瞬間に
トルクカム効果がなくなり領域IVへとスキップを起こす。
すると変速比が大きく変わり負荷が高くなるのでエンジンパワーが付いていけずに
パワーバンドを外れて回転が落込むのである。
トルクカムの溝の位置とエンジン回転数と速度の関係を示した物が下図となる。